はじめに
こんにちは!リクロスの木藤です。
今回は公務員インタビューvol.4として、小柳至さん(@koyanagi_g)にお時間をいただきました。
市役所12年間の中で財政課を経験し、今は「市議会議員に財政知識を」ということで活動されている小柳さん。電子書籍もあるので是非チェックしてみてください!
(新人職員向けの研修は実務に関係のないことが多いので、私も市役所1年目に読みたかった…)
私自身予算要求の担当をさせてもらえた経験もありますが、財政課での査定経験はありません。
また、自治体営業に取り組む企業様も、「財政課は予算を査定する部署」程度の認識で、具体的にどのように考えて査定しているのか分からないことが多いのではないでしょうか。
というわけで、今回もインタビューという形でいろいろ聞いていきましょう!
インタビュー
これまでの経歴
木藤:小柳さん、本日はお時間をいただきありがとうございます!早速ですがこれまでの経歴をお聞かせいただけますでしょうか?
こちらこそありがとうございます。最初に事業系の部署で市の特産品のPRなどを担当し、その後税務課で市税を主に担当。その後財政課に配属され、最後に人事の関係の業務に携わりました。
中でも財政課での経験が「市議会議員に財政知識を」という現在の活動に役立っていると思います。
木藤:ありがとうございます。今回は自治体営業に取り組む企業様に対して、財政課がどのように考えて査定しているのかをお伝えしたいと思います。まずは、財政課での具体的な業務についてお聞かせください。
主に予算編成や地方交付税関連、決算報告などの業務を行いました。
中でも予算編成時の査定は「1番の大仕事」といった感じでしたね。
木藤:ちなみに財政課の体制はどういった感じでしょうか?人数や役割分担(班や係)など。
財政課の中に財政係と財産を管理する係があり、私が所属した財政係は6名体制でそれぞれが1つもしくは複数の部局を担当し、毎年担当部局を入れ替えていました。これにより多角的な視点で査定に臨む土台ができていたと思います。
あと、係長と課長はそれぞれ1名ずつで、基本的には各担当から上がってくる報告に指示を出すといった体制でした。
木藤:ありがとうございます。企業様にとっても少しずつ解像度が高くなってきたのではと思います。
「自治体職員は2,3年で異動する」という認識の企業様は多いですが、財政課の職員が担当する部局が毎年入れ替わることまで把握している企業様となると、数は少ないのではないでしょうか。
「財政に切られた」と自治体職員の方に言われたとしても、翌年度には財政課の考え方も変わるかもしれません。しかし、前年度予算をつけなかった理由は後任に引き継いでいると思うので、しっかりヒアリングしてNG理由を解消していきましょう!
予算査定のチェックポイント
木藤:さて、本題として、予算査定の際のチェックポイントを教えていただけますでしょうか。
予算査定で重視するポイントはいくつかありますが、大前提「その事業が本当に必要か」を私は見ていました。
当たり前のように昔から実施している事業について、「再評価して不要だと判断すれば廃止」「重複している事業があればどちらか廃止」といった形でスクラップした上で新規事業を開始しますね。新規に始める事業があればその目標値(なるべく数値化)、期限(3年毎など)を設定するようにしました。
他にも、建設が伴うものであればそれ自体の費用の他、ランニングコストがどれくらいなるかなど、数えればキリがないほど様々なチェックポイントがありました。
木藤:ありがとうございます。私自身も自治体営業していて目標やKPIとすべき指標、ランニングコストを聞かれることはけっこうありますが、これは財政課の査定をクリアするためでもあるんですよね。
特にランニングコストが生じるサービスだとかなり聞かれるので、支援しているどの企業様もそこは準備していますね。
「単発での支出が増えてもいいから導入費用だけにまとめてほしい」という自治体もあるようです。
そうですね。ランニングコストの増加は財政の硬直化を示す「経常収支比率」という指標にも影響しますし、財政担当としては気になるところですね。
木藤:読書メモを書いているくらいなので「経常収支比率」という言葉は見たことがありますが、財政課職員にとっては常識的な概念なんですね。だから全国どこでもランニングコストを聞かれるわけであって。
ちなみに私の知人が「100万円かけて100万円以上浮くことが数字で示せるのであれば予算はつけるよね」と言っていましたが、小柳さんの認識はいかがでしょうか?
それは正しいと思います。財政課の仕事って削減することが目的みたいに見られることがありますが、実際は総合的に判断して査定しますので。
自治体営業のポイント
木藤:自治体営業と関連付けて、財政課視点で何かポイントはありますか?
3つ挙げるとすると、まず1つ目が「導入のしやすさ」ですね。前例踏襲という言葉がありますが、基本的に公務員は同じ仕事の繰り返しが多いので、大きくやり方が変わるのを嫌がると思います。そこを踏まえて「現状を把握」して「現状からの変化」(金銭的にも労力的にも現状と差が無いがメリットは大きい)を伝えると良いと思います。
木藤:金額だけでなく労力面も当然大事ですよね。「今より100万円より安いです!」と言われても、自分のお金ではないので面倒さが勝ってしまう職員はいるのではないでしょうか。「税金を扱う立場としてどうなんだ!」という声もあるでしょうが、公務員である以前に一人の人間なので。
2つ目が「ランニングコストの提示」です。ランニングコストについては先ほども少し触れましたが、導入が安くても後で相当な費用が毎年かかるとなると経常的な経費が膨らんでしまいます。査定の際に、良いサービスでも後年の経費が膨大にかかることが判明したら予算要求から落とす対象としていました。
コストを抑えるという1点ではなく、あくまでバランスを見ての判断とはなりますが。
木藤:ランニングコストを伝えたらそのまま要求する担当もいるかもしれないので、「ご要望次第でランニングコストを一部導入費に組み込みますよ」と言えば、自治体内部でうまく調整してくれるかもしれないですね。
勉強のために伺いたいのですが、完全成果報酬は財政課としてどういう印象ですか?ふるさと納税(寄附額の一定%)とか業務改善コンサル(削減金額の一定%)で完全成果報酬のことがありますが。
その自治体の方針や業務内容にもよると思いますし、企業がどれだけ成果を上げるか見えづらい部分はありますが、成果×率の考え方を見た時に財源の効率化が図れるのであれば活用しても良いのではないかと思います。
木藤:BtoBの人材紹介とか営業代行であれば「完全成果報酬ならリスクないしやってみるか」という話になることが多いですが、toG(官公庁)だと財源効率化という観点でしっかりチェックしそうですね。ありがとうございます。
話が逸れてしまってすみません。
3つ目が「他市事例の紹介」ですね。変な話ですが「他市がこんなサービスをやっているのにうちはやっていない」これは地味に効くと思います。他の自治体で導入している実績があるのであればそれは伝えた方が良いと思います。
木藤:鉄板中の鉄板ですね。事業課もかなり気にしていますが、財政課も当然気にしますよね。
最後のご質問ですが、一般的に自治体営業に関する発信において「担当課が予算要求案を出してしまったら、もう次年度予算には間に合わない」ということで、下半期(10月~3月)に営業活動しない企業様もいらっしゃいます。
財政課の視点で、「こういう場合は、下半期であってもむしろどんどん適切にアプローチしてほしい」といったことなどありますでしょうか?
たしかに予算案が出た後では次年度予算への反映は限られますが、それでも下半期に営業することは重要だと思います。財政課には嫌がられると思いますが、年度末の議会に提出するまでは市長査定などは行われていますし、既存の事業に関する改善提案や、予算外であっても緊急性のある施策についてはアプローチしてもよいと思います。あと、国の補正予算なんかも下半期にあったりしますね。
また、次年度に入っても補正予算などもありますので「こんなサービスありますよ」という情報は時期を問わず営業し続けた方が良いと思います。
木藤:ありがとうございます。予算編成プロセスはもちろん押さえた上で、アプローチする余地はやはりありますよね。自治体に勤める知人に聞いても、予算要求〆切後に財政課に頭を下げて追加要求することはあると聞きます。もちろん、企業側の勝手な都合でスケジュールを無視したアプローチは控えた方がいいと思いますが。
あまり財政課の方とじっくり話したことがなかったので、すごく勉強になりました。ありがとうございました!
ありがとうございました。
最後に
財政課を経験された小柳さんにいろいろ聞いてみました。
自治体ビジネスに取り組まれている企業様は財政課のことまではなかなか詳しくはないと思いますが、上級者を目指す上では外せない視点だと思います。
私自身もっと勉強して自治体営業の支援に活かしたいので、他の財政課経験者の方にも話を聞いてみたいと思いました。
それではまた次回!今回もありがとうございました!
1994年愛知県豊橋市生まれ。東北大学卒業後、新卒で市役所へ入庁。文化課や中央省庁への出向、転職してリクルートで営業を経験後、株式会社リクロスを創業。リクルート出身のメンバーを中心に自治体営業の支援に取り組みつつ、自治体営業プラスを運営。