はじめに
こんにちは!リクロスの木藤です。
本日は公務員インタビューvol.1として、子ども関係部署を5年ご経験されたIさんにインタビューのお時間をいただきました。
私も文化関係部署にてけっこうな数の営業を受けていましたが、話を聞いてみると、子ども関係部署の方が自治体営業の数が多い様子。
自治体営業に取り組む企業様はもちろんのこと、子ども子育て分野への進出を考えている企業様にも参考になれば幸いです。
インタビュー
これまでの経歴
木藤:Iさん、本日はお時間いただきありがとうございます。早速ですが、これまでの経歴を教えてください。
卒業後、県内の自治体の職員として採用されました。経験した部署は課税や図書館、子ども子育てなどです。
木藤:それぞれ詳しく教えていただけますか?
課税部門では住民税を扱っていました。
図書館では現場へ配属になり、施設の管理、司書の会計年度任用職員の方々の人事労務や予算管理、あとは図書館のカウンターに立って本の貸し出し・返却も行っていました。
子ども子育て部門では5年ほど在籍し、子育て支援政策に関わることを多岐にわたってやりました。
ハード事業(建物の建設、公立保育園などの施設の運営管理等)やソフト事業(補助金交付手続き等)です。
木藤:私が市役所に勤めている時は市内文化施設の管理を指定管理で外部委託していたのですが、どのように運営されていましたでしょうか?
直営です。私は本庁にいたのでバックオフィス的な仕事をやっていました。
現場から上がってくるレポートのチェックや、お金や建物の管理とかをやっていましたね。人事労務も本庁で集約です。
木藤:ありがとうございます。直営と指定管理の違いがあるとは言え、私も似たような仕事をやっていましたね。「文化施設を管理している事業者を管理する」みたいな。
営業を受けていたサービス
木藤:自治体営業プラスは名前の通り自治体営業をテーマにしています。公務員として自治体営業を受けてどう感じたかとか、企業はどのように営業すべきかなど参考になればと思っています。
ということで、まずはそれぞれの部署でどのようなサービスの営業があったのかを教えていただけますでしょうか?
課税部門では税の基幹システムとかですね。あとはデータ入力の外部委託や、申告受付会場での臨時雇用とか。
図書館では図書や図書の動きを管理する基幹システム、出版社から本の売り込みなどです。あとは近年ブームになっている電子図書館の関係もありました。
木藤:図書関連の基幹システムは公立図書館に特化したシステムなのでしょうか?それとも民間サービスの知見を自治体向けに転用したものでしょうか?
公立も民間も同じシステムである印象です。特に差別化するところがないんですよね。
木藤:同じなんですね。詳しくないので恐縮ですが、自治体のLGWANとかに関係のある特化システムだと思っていました。
最後に子ども子育て部門についてですが、そういえば部署名が変わったんですよ。
木藤:こども家庭庁発足に伴って機構改革で部署名が変わる自治体はけっこうありますね。デジタル庁とセットでDX課とかデジタル戦略課みたいな部署が増えたのと同じで。新設部署や(他自治体と比較して)珍しい名称の部署は、何かしら新しい取り組みをしようと前向きなので、比較的アポをいただけることが多い印象です。
子ども子育ての部署で営業を受けていたサービスはいろいろあります。
思いついた順に言うと、保育所運営や給食準備の受託、布団やオムツのサブスク、保育所のICTシステム、午睡チェックセンサー、園バスの放置管理システム、親御さん向けセミナー、子育てアプリ、子育て関連HP制作、おもちゃや数千万円する遊具、おやつ、スポーツ教室などです。
木藤:すごくいろいろありますね…。午睡チェックセンサーや園バスの放置管理システム、遊具とかは全国のどこかで死亡事故が起きたら一気に予算要求しそうですね。
そうですね。実際にサービス開発とか営業も一気に増えますね。
木藤:ちなみに、なぜスポーツ教室の営業が子ども子育て部門に届くのでしょうか?どこの自治体にもスポーツを直接扱う部署がある印象ですが。
園単位でスイミングに通わせたりすることがあるんですよ。なので、「夏のプールをうちのクラブでやりませんか」といった営業があります。
木藤:スポーツに限らず、今の営業先だけでなく他の部署にもアプローチしてみるといろいろ発見がありますね。システム受託開発の知見などは他の分野でも活きると思いますし。
子ども子育て部署における自治体営業について
木藤:自治体営業に関連していろいろ質問していきたいのですが、その前に部署について教えていただけますでしょうか?
私の自治体では課に15~20人ほどいました。島(係・班)は3つあって、1つは計画策定や予算を担当する筆頭係です。
木藤:他2つはハードとソフトですかね?
それが違うんです。2つ目が保育園や幼稚園認定こども園の入園、保育料、補助金を扱っていました。
3つ目はまた別の事業です。
木藤:保育園とそれ以外という感じでしょうか?
そうですね。3つ目の係では児童クラブやその他のソフト事業がありました。
木藤:ありがとうございます。自治体営業という意味では、どのくらいの頻度で受けていましたか?
肌感覚では、私個人で架電月5件、飛び込み訪問が2,3か月に1件くらいですね。
木藤:私が文化課にいた時より多いですね。架電は全然記憶になくて、飛び込み訪問が年5~10件くらいだった覚えがあります。今思えば、文化関係は文化施設の現場(指定管理者)にほとんど営業がいっていたんだなと思います。
市に直接営業が来るのは、金額規模の大きい修繕とか、市役所の他の部署も関わるWi-Fiとかでしたね。営業がまずは現場に行って、現場の方が「その話は市役所にして」とやり取りしてくださったのかもしれません。
私の自治体も同様で、保育園などの先生に聞くと営業が日常茶飯事のようでです。現場で弾いた営業が市役所に来るといった感じだったと思います。もちろん、最初から市役所に来る方もいました。
木藤:営業先の特定は自治体営業に限らず難しいですよね。
コロナ禍では消毒液の営業が増えました。文化施設に消毒液を設置したい場合でも、担当課が当時は文化課でもなく、現場(文化施設)でもなかったんですよね。
非常事態なので、その対応がたまたま割り当てられた別の部署が取りまとめで担当していたんです。
私の部署では「子ども食堂やりたいから補助金ください」という話が来たことがありますが、管轄が違うということはありました。
木藤:部署名に「子ども」が入っていても子ども食堂は担当していなかったり、スポーツ課が別にあるのにスポーツ教室の営業先が子ども子育て部署だったり、混乱しますよね(笑)
逆に、企画課からお掃除ロボットの営業が回されたこととかもありましたね。
自治体営業のアドバイス
木藤:自治体営業を数多く受けたきたIさんですが、自治体営業に取り組む企業様向けにアドバイスをいただけますでしょうか?
まず第一に、どれだけ素晴らしい商材を持っていても、予算編成のプロセスと時期が合わなければ導入は難しいです。
木藤:そうですね。どの公務員の方に聞いても、この内容が一番最初に出てくる気がします。
担当者としてはぜひ導入したいという素晴らしい商材に出会っても、予算周りは柔軟にできないんです。
補正予算という仕組みはありますが、例えばコロナや大きな事故など、何か特別な事情がない限り、新しい予算を取るのは非常に難しいです。年度前から計画していないと、契約に結びつきません。
これまで実際に契約した事業者は、先を見据えた話を持ってきてくれました。時間もあったので、デモを見たり勉強会を開いたりして話を進めることができました。後手になると難しいです。
木藤:Iさんの自治体だと、営業をかける時期はいつが最適でしたか?
必要なお金を決めるのは前年度の夏頃ですね。6月から7月頃が重要な時期です。
秋には大体固まっているので、新しい提案は夏が良いタイミングです。人事異動の影響も考えると、6月から始めるのが良いと思います。
木藤:人事異動で担当者が変わり話が進まないこともよくありますよね。個人的には、6月からの営業だけではなく、年中接点を持っている企業が明らかに有利になると思います。
なまじ自治体のスケジュールを知ってしまうと、予算要求前に1回接点持つだけの企業が多いんですよね。
営業回数が少ない方が効率的に見えるのですが、年に複数回(3~12回とか)しっかり接点を持っている企業と比べると受注率は下がるので、結果的に効率的でなくなってしまいます。
早めに情報を提供しておくと職員も覚えてくれますし、職員にとって重要な存在になりますよね。
木藤:自治体営業の営業代行をやっていて気付いたのですが、2月や3月は思ったよりかなりアポをいただけるんですよね。
次年度予算要求プロセスは終わっているのでさらに先を見据えていますし、職員の方も「異動するかもしれないから、その前に自分が話を聞いておこう」と思ってくださるのかもしれません。
もちろん、3月半ば以降は「年度末で忙しい」となりますが。
そうですね。1月から3月にかけては、再来年度に向けて早めに動くことが求められます。
木藤:Iさんのおっしゃるとおり補正予算も期待しすぎない方がいいですが、緊急時などに対応できる体制を整えておくことが重要ですね。そういった意味でも、扱うサービスにもよりますが6,7月だけでなく年中営業できる体制にしておくべきかなと思います。
そのほかには、国や県の予算を見据えた営業が有効です。自治体は国や県の補助金を使って事業を行うことが多いので、その情報を営業側が把握していれば、提案しやすくなります。
木藤:そうですね。自治体のプロセスを理解し、国の予算の動きも確認しておくことは非常に重要です。
自治体の部署の誰かしらは国や都道府県の動向をチェックしているはずですが、事業者から国家予算などの情報について情報提供があると信頼度は増すと思います。自治体の意思決定を民間企業がサポートしてあげる関係になってほしいですね。
あとは、何回か足しげく通ってくださるとすごく誠実に感じますね。今でもそういった会社や営業担当の方のことは覚えています。
木藤:ベタですけどすごく大事ですよね。「市役所のルールは独特」だけれども「職員は普通の人間」です。当たり前ですけど(笑)
なので、市役所特有のルールはしっかり覚えつつも、対人間という当たり前の事実に向き合って営業活動していただきたいと思います。
6,7月に1度だけ営業してくる企業よりかは、国や他地域の動向などまめに情報提供してくださる企業と一緒に仕様書を作って実現まで進めていきたいですよね。
入札プロセスなんかはもちろんフェアにやりますが、担当個人としては「いろいろ情報提供もしてくれて、一緒に現場を視察して、仕様書作成まで手伝ってもらったこの企業さんに決定するといいな」と当然思いますよね。
最後に
木藤:今日はありがとうございました。最後に何かあればお願いします。
民間企業に勤めたことのないたたき上げの公務員もけっこういるので、是非自治体のことをしっかり知った上で活動していただきたいです。お互いに歩み寄っていけるといいですね。
木藤:ありがとうございます。行政のプロである公務員の意思決定を、分野やサービスのプロである民間企業がサポートできる世の中になるといいなと思いつつ、私もこれから頑張っていきます。
1994年愛知県豊橋市生まれ。東北大学卒業後、新卒で市役所へ入庁。文化課や中央省庁への出向、転職してリクルートで営業を経験後、株式会社リクロスを創業。リクルート出身のメンバーを中心に自治体営業の支援に取り組みつつ、自治体営業プラスを運営。